他人を見下す若者たち

どうもデータの分析が恣意的な感じがするし、それに基づいた論の展開も「結論ありき」の強引なやり口に見える。取り上げた事例に関する著者の分析で「こどもたちは・・・とする」「・・・と言える」とある度に、その事例に関して著者自身が「観察対象に共感的理解を示す事」が出来ていないのではないか?とさえ感じてしまう。
しかし本書で指摘する「仮想的有能感」が蔓延しているという説や、それによって社会に歪みが生じているという事に関しては、根拠となるデータ云々という話は別として直感的に理解できるし、問題であるとも認識できる。だが一つの学術研究として考えた場合、さすがにこの完成度では認められないのではなかろうか?
もっとも「あとがき」で著者自身が述べている様に、この研究そのものが心理学界で十分に認められたものでなく、実証的研究も始まったばかりという事を考慮に入れれば、本書で示された理論の完成度が低い事も仕方無いのかもしれない。未完成であっても、とりあえず新書の形で世に出す事によって、多くの人へこの問題を提起する事が出来たという点で本書に意義はあると思う。しかし同時に、ここまで拙い内容ではむしろ多くの人に「下らない妄言だ」という印象を与えかねないリスクも伴っている、何せ読者の多くは本書で指摘する「仮想的有能感に浸る人々」なのだから。
ちなみに本書の結末部分で述べられている「仮想的有能感から脱出するための3つの提案」は、どれもごく常識的な意見であり、これからの社会にとって大切な事だと思える。「展開する理論に疑問は残るが、最終的に言ってる事は至極マトモ」というあたり、某六星ババァに通じる点があるなと思ったり。もっともその内容的な部分で人を惹き付ける力は、比べ物にならないだろうが。書店的には帯のインパクトで在庫を売って終了、という流れになりそうだ。

他人を見下す若者たち (講談社現代新書)

他人を見下す若者たち (講談社現代新書)