シンギュラリティ・スカイ

「ポスト・シンギュラリティを描いた良作」ってふれこみで読み始めたのだけど、中程まで読んだ段階ではさほど新鮮さを感じず。普通の未来宇宙冒険活劇の印象。
しかし読み進めて行くうち、面白くて頁をめくる手が止まらなくなった。本書の特徴の一つとして、とてつもなく大きな容量の情報を詰め込んでる点が挙げられる。コンピュータ関連や量子力学についての記述が多いのは、本書の設定・テーマからすると当然。しかしそれだけに留まらず、社会学やら哲学やらの用語もバンバン飛び出す。えてしてそういう作品は説明調になったり冗長で退屈だったりするが、本書の作者はそれをあくまでも「語りのツール」として生かしきっている。情報の波に漂いながら夢想する物語は緊張と驚きの連続だ。
この作品では辺境の惑星を舞台にして「シンギュラリティによる変革」を読者に見せてくれるが、こんなに独創的かつ魅力的な世界観を見せつけられると、描かれなかった他の舞台に興味が沸くのは当然の事。ご心配なく。続編の"Iron Sunrise"もハヤカワ文庫から近刊予定です。首を長くして待ちましょう。
最後に、本作品の萌えキャラ。新共和国軍遠征艦隊旗艦<ロード・ヴァネク>、ミルスキー艦長。やられ役なんですが。でも旧ソ連軍を思わせる宙軍の中で、抜群の冴えを見せて艦と乗組員を指揮するこの男、カッコよすぎます。イメージとしては「レッド・オクトーバーを追え!」(映画版)のラミウス艦長。彼から敗北主義者成分を引いた感じ。キャラ造形が近い事もありますが、宇宙での艦隊運用が潜水艦のそれに近い事もイメージがダブる一因か。そんな訳で「男臭い生粋の軍人萌え」な方にはオススメです。

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)

シンギュラリティ・スカイ (ハヤカワ文庫SF)