ウロボロスの波動

遅ればせながら読了。「この連作短編集は太陽系開発史であると同時に、ファーストコンタクトSFになる予定である」らしい。
世界観と理論をガッチリ設定し、尚且つそれをダラダラと解説せず「こういう設定なんでヨロシク」みたいなノリで「芯の部分だけを大切に描く」という作風はかなり好みでした。
様々なテーマを持った各短編はそれぞれ面白いのですが、個人的により興味を惹かれたのは「AADD」という組織(作者流に言えば「非組織」なんですが。「共同体」とでも言うべきなのだろうか?)です。いわゆるピラミッド型の組織ではなく、プロジェクト駆動型の柔軟な組織。個人の評価は純粋に仕事の成果によってのみ為され、就いている職務そのものの上下は無く、役割が違うだけ。曰く「二流の店長より一流の店員の社会的評価は高い」。こういう概念は面白いですね。この世界においては「ウェッブ」なる高度個人情報端末の普及によってこれが成り立っている訳ですが、今の技術でもそれに近い組織は十分に運用出来るような気がしないでもないです。
正統派SFの割には小難しい理論が満載って訳でもないし、普段SFを読まない人にもオススメ出来ると思います。「高度な情報化によって変化する組織形態と社会・文化」ってのに興味がある人にも、参考としてオススメ出来そう。それより何より、理屈抜きで面白いのですよホント。
しかしなぁ、アポロが月面に降り立ってから大分経つのに、最近な〜んか宇宙開発は(一般人が知れる範囲では)停滞気味っぽいしなぁ。せめてこういうSFでも読んで妄想を膨らませないとやってらんないよね。続編が楽しみ・・・って、既にJコレクションで『ストリンガーの沈黙 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)』が出ています。文庫化は暫く先だろうしなぁ・・・買ってしまいそう。

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)

ウロボロスの波動 (ハヤカワ文庫 JA)