本の注文と「保留」について〜そして伝説へ

書店というのは「売れるものはあるのに、商品が入荷しない」という状況が発生する特異な業態です。欲しい時に発注しても品切れで、旬を過ぎてから保留されていた注文分が入荷する、なんてことは頻繁にあります。
夏に不足してたスイカが秋に入荷しても無意味なのと同じですね。
問題はこの「保留」というシステム。発注する側としても旬を過ぎてから入荷するリスクは抑えたいので、対抗措置も一応あります。FAX注文と電話注文に限定した方法ですが、「保留不要」と相手に伝えれば良いわけです。
じゃ、なぜそうしないのか。これは「注文時点で在庫が無くても、近いうちに再入荷があるかもしれない」という一縷の望みを託してしまうから。実際、取次の担当者や版元の営業が頑張ってくれた結果、旬の内に手に入る事もあります。これは商品(と、各書店の力)によりけりです。
可能性は低いが直ぐに商品が手に入るメリットと、旬を過ぎてからの入荷で不良在庫を抱え、返品率を上げてしまうデメリット。期待値を計算すればどちらに分があるかは明白です。にも拘らず、我々が低い可能性に懸けてしまう理由、それは「お客さまからの信頼」です。「あの本屋には話題の本が置いてある」という評判を手に入れるのは、一朝一夕に出来るものではありません。しかし「あそこに行っても置いてない」と思われるのは簡単な事です。そして、そういう「ダメ書店」の烙印を押された書店の将来は・・・言わずもがなです。
結局は内部で在庫の融通が出来て、発注数もケタ違いのナショナルチェーンと、返品が極めて少ないネット書店しか残らない状況になるのでしょうか?現行システム上でこの状態になれば、書店も取次も版元も得をするのかもしれません。しかし、これは本当に、一人一人のお客さまの為になるのでしょうか?すべてのお客さまはネットを使える環境にあるのでしょうか?ナショナルチェーンの店舗は、くまなく全国をカバーするのでしょうか?そしてそのチェーン店すべてに、求められるだけの本が行き渡るのでしょうか?
そして取次。こうした少数の大手販売店だけが残る状況で、「問屋」の存在意義は問われないのでしょうか?ジャスコ等の大手生活雑貨・食料品販売チェーンがメーカーとの直接取引比率を高めているという傾向は、人ごとでは無いと思います。
出版流通のあり方と仕組み、そろそろ考え直す時期なんだと思います。そこで決して欠いてはならないのは「お客様の利便性」という要素でしょう。主役は、本を読んでくれる一人一人のお客さまです。
「地方の零細が自分達に都合の良い論理を展開してる」と思われれば、それまでですが。