新作コミックの需要予測に関する一考察 - 『To LOVEる (1)』を事例として

矢吹健太朗センセの新作が全国の書店で品薄であり、当店への配本数もカナーリ少なかった事は昨日記しました。しかしながら個人的には集英社が部数を減らすのも納得出来る部分があります。お客様に「品切なのは偏に書店担当者の無能に因るもの」なんて思われるのも癪なんで、一応俺の希望数決定プロセスとか版元の判断に対する推論とかをエントリ立てて書いておこうかと。以下長文にて失礼。
さて。ウチの店では、次月のコミック発売予定表が発表された時点で全点、取次会社に希望数を提出します。希望数通りの配本が保証される訳ではありませんが、ある程度は参考にして頂けるというのが現状です。
この希望数を決めるにあたって基準となるのが「前巻の売れデータ」です。1巻目、あるいは単巻モノであれば「同著者の他作品実績」が基準となります。今回の場合は後者に属する事例ですので、先ず「『BLACK CAT』の実績」が基準となり、そこからの増減を次に考えます。主に考察した要素は下記の通り。

  1. ジャンプのエロ専任担当としての需要
  2. 前作との購買層の違い
  3. ネット・店頭での注目度

1について。私は『電影少女』こそジャンプエロの最高峰であると思っていますがそれはどうでも良いとして。歴代のジャンプエロの人気を考え、さらに『いちご100%』の実績を考えれば、ジャンプのエロ担当というポジションは売上に相当影響すると考えて良いでしょう。これは需要に対するプラス要素です。
2。1の要素に関連して、『To LOVEる』と『BLACK CAT』の客層には乖離があると思われます。それは“girl”、とりわけ“rotten girl”な方々の支持が得られるかどうか。『BLACK CAT』の売上数に対する女性の割合や、エロ作品の女性支持率について確たる根拠となるデータを持っている訳ではありませんので、ここは簡単なサーチと感覚による決定になります。私は「若干のマイナス要素」と規定しました。
3は文字通り。漫画系ブログでの言及や感想、或は某掲示板の盛り上がり等を見ます。これらに関しては内容もさることながら、「言及数の多寡」をより重要な指標と考えています。基本的に、全体を俯瞰した場合「面白い/注目度の高い作品ほど言及数が増え、ツマラン作品へのダメ出しは淘汰される」という考え方。店頭での単行本化時期お問い合わせに関しても同様に。今回の事例では「プラス要素」と判断しました。
こうして各要素のプラスマイナスを判断し、次にその「重みづけ」です。これに関して私は数値化の方法を未だ持ちませんので、主観的判断となってしまいます。今回の場合は1・3のプラス要素を強く見て、『BLACK CAT』の実績(但し、この場合は末期の売上が減少したデータ)より少し多い希望数を提出しました。
以上が私の需要予測です。版元さんの場合は「読者アンケート」も指標としているのでしょう。読者アンケート結果はジャンプの場合掲載順で我々も知る事が出来るのですが、掲載順平均と売上の連関について分析結果がありませんので、私は指標として採用していません。しかしこれ以外の要素について、我々も版元さんもそう違うモノでは無いと思います。
では、なぜここに差が生まれるか。やはり立場の違いでしょうね。我々とて返品率は気にしていますが、やはり「即死のリスクよりは多少余る方がマシ」と考える部分があります。一方で版元さんは「返品在庫を抱えるより、売り切れてから重版」と考えるでしょう。もう一つ、各要素の重みづけ判断の違いもありそうです。3に挙げた「ネット上の注目度」というのは必ずしも信頼性のある指標とは言い難いですし、そうしたデータを重要指標として採用する事には、まだ事例の積み上げが少ないのではないでしょうか。少なくとも、一書店ではなく大出版社の判断として用いるには。逆に2にあげた顧客層の違いなんてのは、慎重に判断するでしょう。腐女子云々は別としても、例えば藤崎竜の『封神演義』と「それ以外」の明確な差異、なんて会議でネガティブ事例として持ち出されそうだし。不安定なプラス要素とわかりやすいマイナス要素があるならば、ケタ違いの責任を負う立場の人が慎重になるってのは納得出来る話です。だって仮に売れちゃっても、重版すれば良いのだし。まあ、それにしても少なすぎな訳だが。
とまあ自分の判断基準をまとめてみて、版元さんにも理解を示してみました。思い切り検討違いな推論してたら赤っ恥 ((((;゜Д゜)))ガクガクブルブル