天涯の砦
SF的なガジェットは殆ど用いず、人物の内面を描く事に焦点を当てている。後書きから類推されるように、今後の著作活動を見据えた実験だったのでしょう。
「事故で巨大なデブリと化した構造体におけるサバイバル」という設定。まず冒険小説として楽しめる物語ではあるし、「状況」を巧く描いていると思う。
ただ人物の描き方を見れば疑問も残る。登場人物はそれぞれの思いを胸に秘めているが、それを自分語りで吐露しつつも淡々と状況打破に努めている「だけ」に見えてしまう。思い入れをする事は難しかった。
人物のキャラ立てがわざとらしかったり、そもそもの事故の原因(ベアリングのグリスが金属浸食を引き起こした)とかが無理矢理*1だったり。ハヤカワから出すから仕方ないのだろうけど、いっそSFって枠組みを全部無くして描いた方が目的を達せられたのではないかと思う。SFに拘るなら、パラドックスとループを組み合わせてAIを騙すシーンとかをもっと丁寧に描いて欲しいし。
なんか悪口ばっかりですけど、某賞の選評風に言うなら「力のある著者なので次回作に期待したい」ですね。だって小川一水だもの。実験の成果は確実に出してくるでしょ。
- 作者: 小川一水
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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